山上の楽園
幌尻岳の氷河地形
日高山脈の主な稜線の東-北向き斜面には,まるでスプーンで抉ったかのようにくぼんだカール地形が多数存在している.特に幌尻岳のカールは,形が大変きれいなことで知られている.中でも七ツ沼カールは,登山シーズンの夏場には,多くの沼地が点在し,氷河期の遺存種である高山植物やナキウサギ,ヒグマの楽園となっている.
カール付近の岩盤には,氷河が移動するときに削られた跡(擦痕)が残されており,氷河によって削られ取り込まれた岩片などが,氷河の末端で堆積した長い丘のような地形(モレーン)が確認される.日高山脈の氷河地形は,カールとモレーンが互いに組み合わさって,それが大きく2段になっており,少なくとも2回,氷河が発達したと考えられている.2万年ほど前の氷河よりもより古い時代の氷河(5~4万年前)が最大拡大したことが明らかになり,ヨーロッパや北米の氷河拡大の時期とは異なるようである.「幌尻岳と七つ沼カール」として日本地質百選に指定されている.
既存の指定など
日本地質百選
所在地
平取町
参考文献
北海道立地下資源調査所(1961)5万分の1地質図幅「幌尻岳(釧路-50)」および同説明書.46p.
小野有五・平川一臣(1975)ヴュルム氷期における日高山脈周辺の地形形成環境.地理学評論,48,1-26.
岩崎正吾・平川一臣・澤柿教伸(2000)日高山脈トッタベツ川源流域における第四紀後期の氷河作用とその編年.地理学評論,73A,498-522.
岩崎正吾・平川一臣・澤柿教伸(2002)日高山脈トッタベツ谷における氷河底変形地層について.地学雑誌,111,519-530.
岩田修二(2009)北海道の周氷河現象と氷河地形.北海道の自然(北海道自然保護協会会誌),47,54-58.