風と海水準変動がつくったせき止め湖
礼文島唯一の湖:久種湖
礼文島南部の香深港フェリーターミナルから車で東海岸を約20分走ると,礼文島唯一の湖である久種湖(くしゅこ)にたどり着く.湖の西岸には徒歩で行くことのできる展望台があり,そこからは,久種湖,湖畔のキャンプ場,船泊湾を取り囲む岬と湾に広がる砂浜を一望できる.天候の良い日には利尻山も見ることができるという.
現在の久種湖は,海岸砂丘により海と隔てられ,礼文島を南から北に向かう大備(おおそなえ)川が流れ込んでいる.しかし,湖の歴史を辿ると,かつては砂丘もなく,湖もなかったと考えられている.そこはかつて海に面した内湾であり,河川の一部であった時期もあった.
約1.8万年前は,地球規模で著しく寒冷な気候が到来しており,氷期のうちでも最も寒冷な時期(最終氷期の最寒冷期)だった.その頃は,現在と比べて海水面が100 m程度もしくはそれ以上も低かったと考えられている.このため,礼文島は北海道と陸続きとなり,現在,久種湖のある場所には河川が流れていたであろう.その後,現在のような温暖な気候へと変わりゆく中で海水面も上昇し,縄文時代には現在よりも海水面が数m高くなった.その時代には,現在のように砂丘はなく,久種湖は内湾(海)であったと考えられている.その後,海水面が徐々に下がるとともに,季節風が砂を吹き寄せて海岸砂丘を作り,内湾が海と隔てられて,現在のような久種湖ができたと考えられる.
久種湖は小さな湖だが,その歴史には地球規模の気候や海水面の変動が織り込まれている.海抜0mからの高山植物とともに,この湖が語る地球の歴史にも思いを馳せて欲しい.
既存の指定など
利尻礼文サロベツ国立公園
所在地
礼文町 船泊村 久種湖
リンク
参考文献
遠藤邦彦(1974):礼文島船泊湾岸砂丘の形成期とクロスナ層の性格について.日本大学分理学部自然科学研究所研究紀要,9,1-13.
遠藤邦彦(1984):最終氷期以降の北海道沿岸地域の環境変遷.福田正己・小疇尚・野上道男編「寒冷地域の自然環境」,北海道大学図書刊行会,231-250.
Kumano,S. et al., 1990, Holocene sedimentary history of some coastal plains in Hokkaido, Japan. V. Sedimentary history of Kushu Lake and Akkeshi. Ecological Research, 5, 277-289.
三浦英樹(2003):礼文島-風と海と川が織りなす最北の島のかたち.小疇尚・野上道男・小野有五・平川一臣編「日本の地形2 北海道」,東京大学出版会,225-229.