付加体のパラドックス
白神岬きのこ岩の成層チャートと変形砕屑岩
付加体の内部では,プレート沈み込みに伴う剪断作用によって地質体の切断・再配置が行われ,その中では地層累重の法則が成り立っていない場合がある.それを端的に表わしている露頭が,ここで紹介するキノコ岩である.
白神岬から松前市街方面に行くと,道路左側にトイレ・駐車場を備えた『白神展望広場』がある.ここから松前方向の海岸を見ると,キノコが生えたような形の特徴的な岩が遠くに見える(写真1).
近づいてみると,このキノコ岩の上部は成層したチャート,下部は泥岩と珪長質凝灰岩の互層からなっていることが分かる(写真2).さらに接近して見ると,チャート岩体の下底面は下位の互層の層理面に斜交して切っており,通常の整合関係ではないことが分かる(川村・大津,1997)(写真3).実はこのチャート岩体(三畳紀:豊原ほか,1980)は,泥岩と凝灰岩互層(ジュラ紀中世)の上に堆積したものではなく,プレート沈み込み時に海洋プレートの上にあった深海性堆積物が,この位置に構造的に挿入されたものなのである.
所在地
松前町 白神岬付近
参考文献
地質調査所(1990)5万分の1地質図幅「松前地域の地質(札幌-92)」および同説明書.98p.
川村信人・大津 直,1997,ジュラ紀渡島帯付加体における内部流動現象とチャート岩体の産状.川村信人・岡 孝雄・近藤 務編「加藤誠教授退官記念論文集」,183-189.
豊原富士夫・植杉一夫・木村敏雄・伊藤谷生・村田明広・岩松 暉 (1980) 北部北上山地-渡島半島の地向斜. 日本列島北部における地向斜および構造帯区分の再検討,27-36.